市場の8割を左右する女性視点マーケティング詳解 vol.3
女性視点マーケティングの第一人者であり、株式会社HERSTORYの代表取締役でもある日野佳恵子による、本連載。第3回目は、常に未来を見ている女性たちの消費様式を例に挙げながら、女性視点とはどのようなものかを探っていきます。
HERSTORYは、女性視点マーケティングを専門に事業を展開しています。この連載記事では、「女性視点マーケティング」の重要性に焦点を当て、具体的な事例を交えてわかりやすく解説していきます。皆様のビジネスに新たな視点やアイデアを提供し、今後の展開に役立てていただける内容となっています。ぜひ、ご活用ください。
タイトル「女性たちが見ている10年後の消費社会」を書きはじめたのは、2019年秋でした。もちろんその本のテーマは、「女性視点マーケティング」であり、私が長年研究と実践を重ねてきた内容を集大成にして発表したいと考えてのことでした。
予想もしなかったコロナウイルスとの闘い
半年後の翌2020年春には出版の予定だった「女性たちが見ている10年後の消費社会」ですが、誰もが想像していなかったウイルスとの闘いがやってきました。新型コロナウイルスの影響によって、世界中、そして日本経済も大打撃を受けました。
まず、コロナ禍で私が行ったことは、弊社が月刊で発行している女性消費者動向レポート「HERSTORY REVIEW」をバージョンアップさせ、紙の形式からPDFのダウンロード形式で読めるようにしました。
そして、取材どころではなくなった3月から6月までの自粛環境の中、社内もリモートワークになり、定期的に女性消費者に行っていたインタビューも、個別のオンラインインタビューに切り替えました。
このオンラインインタビューは、20代から60代までの女性たちに個別に行っていたのですが、彼女たちは年齢も住んでいる場所も違うにもかかわらず、世代を超えて、場所を超えて類似した新しいワードを口にしていました。
なんと、女性たちは、いつでも暮らしの最前線で「これから」を感じ取っていたのです。
女性が見ている視点はいつも「これからの未来」
「これからの未来」を見るのは、家族を、自分を守るために、暮らしを守るために「先手」を打つ女性たちの本能なのです。仕事をし、家事をし、子育てをし、学校の支度をし、塾と関わり、地域と暮らし、家族の買物に追われる中で、どう「取りまわし」ていくか、という処世術なのです。
男女平等だ、女性活躍だと言いながら、日本では女性の家事育児労働時間は、先進国中、世界第1位で、男性は世界最下位という事実があります。彼女たちの発言を聞きながら、女性消費者動向レポート「HERSTORY REVIEW」2020年7月号を「無料号外」にして、できるだけ多くの方に配ろうと決めました。
その中で私は「女性消費者7つのWith コロナ様式」を発表し、想像を超える多くのダウンロードをいただく中で、女性たちのリアリティに近づく調査、報告を強化しようと決意しました。同時に、書き進めていた本書も、より女性たちの本質に寄せていく内容に変更していきました。
さらに、「女性たちは未来を見ている」ことを多くの方に実感していただくために、何度も書き直しを加えていきました。幸いなことに、新型コロナ感染拡大によって自宅中心の活動になったことで、執筆環境が整っていたのです。こうして、本のタイトル「女性たちが見ている10年後の消費社会」となったのです。
「HERSTORY REVIEW」2020年下期キーワードの動きを確認
まずは、想定外の年となった2020年の新型コロナウイルス感染拡大の自粛後から年末までの変化を確認し、そこから10年後を考えてみます。
毎月10代から60代までの女性に、アンケートを取り、オンラインインタビューをし続けていくことで、刻々と変化していく気持ちを定点的に追い、その変遷をキーワード化してレポート「HERSTORY REVIEW」で発表し続けてきました。
【2020年7月 女性消費者7つのWithコロナ様式】
女性たちは家族を守るために、家庭防疫大臣のごとく振る舞う。
①衛生管理:家庭内の衛生管理責任者の意識を持ち、指揮を執る
②家族優先:家族単位での行動を優先。行動管理者となる
③手製向上:時間の過ごし方を工夫。手づくりで楽しさと時間消化
④内需活性:国内支援、ふるさと支援、災害地支援。近場で遊ぶ
⑤接続連携:SNSで常時、頻繁に遠方の親や知人たちと情報交換
⑥健康免疫:免疫力を高める食材や発酵食品を摂取、体質改善主導
⑦内部留保:保険の見直し、貯蓄や運用を学ぶ、意義ある買物へ
【2020年8月 抑えの夏、気分は外へ】
子どもや家族のメンタル、そして自分の体調も考えて気分転換の工夫をする。旅行や外出の制限があるなら、家の中で外出気分を味わおうと、ベランダにテントを張ってキャンプ風、部屋の中に駄菓子や釣りゲームを置いて夏祭り気分、飲み歩きできない夫のために居酒屋風メニューを手づくりして女将さん疑似店舗、ハワイに行った気分のインテリアで、パインジュースにお花をつけてなど、涙ぐましい工夫例が多数、聞かれた。
【2020年9月 気にかけ合う身近消費】
家族の防疫のコツに慣れてきたことで、次第に周囲の人々に目が行く。なかでも実家の両親や遠方の友人知人などだ。SNSやリモートでは思いが届かない。そこでお菓子、果物、手づくりのマスク、子ども向けのスナック、おもちゃなどを贈答し合った。タイミング的に敬老の日も重なったことも大きい。荷物には便箋を使用して手紙を入れるなど、デジタルでは味わえない気持ちを表わす行動が見られた。
【2020年10月 緩みを整える支度消費】
経済が動き出し、防疫術も身につけて、普通の生活に戻れるように努力を開始。ふと気づくと出かける頻度が少なかったことで、髪の毛はパサパサ、お肌は乾燥、運動不足とホームウェアで身体も緩んでいるという自分自身を放置していたことに気づいた。まるで我に返ったかのように自分メンテナンスに動き出した。
慌てて高級シャンプーやトリートメントを購入。エステや美容院へ。
そろそろ他人と会う態勢に自分を整えて、身支度に対する消費が活発に。
【2020年11月 脱コロナ奮起 塗りかえ消費】
今年も残すところあと2ヶ月。GoTo トラベルがスタートし、格安で泊まれる温泉地で少しリッチな部屋を予約。都内在住者でも都内のホテルに家族で毎週末に宿泊。部屋は人数分取って個室で楽しんでいるという声など。1年間、ネガティブだった空気を一気にポジティブな記憶に塗り替えて終わりたいという奮起が見えていた。
【2020年12月 暮らしアップデート サステナブル意識消費】
再びコロナ第三波。しかしもう、これまで得てきた経験を実行するのみ。
暮らしの視座がひとつ上がった。想定以上に長引く自粛生活によって、体験してきた行動の中には、習慣として定着しそうなことも多い。「新しい生活様式」は、人を想い、誰かのために役立つ行動に向かいはじめた。女性はもともと社会貢献意識が高い。女性たちの発言には、サステナブルやエシカル(倫理的・道義的)な行動を意識していることが幅広い世代ではっきりと聞かれるようになった。
【2021年1月 結構いいね! 新習慣2021 ニューノーマルラバー消費】
新しい年が明けた。「ネットフル活用」「家族時間を快適にする工夫」「大切な人を想う」「助け合い協力し合う」「無理をして生きない」。
つらいこともあったけど、いいことも発見できた。この暮らしを愛していこう。明日へつなごうという行動が見えてきた。
次回は、価値観が変化していく時代の中で必要な「感じる」マーケティングについてお話しします。
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日野佳恵子
株式会社HERSTORY(ハー・ストーリィ)代表取締役 1990年創業 タウン誌の編集長、広告代理店のプランナーを経て、結婚、出産を機に専業主婦を経験。女性のクチコミ力、井戸端好きに強い衝撃を覚え、広告よりクチコミのパワーが購買に影響を及ぼしていることを確認。一貫して男女の購買行動の違いに着目したマーケティングを実践し、女性客マーケティングという独自分野を確立。多数のコミュニティや実店舗を自ら運営。10万人の生声、3万件に及ぶアンケート分析、5万人以上の男女購買行動を研究。
【著書】
「クチコミュニティ・マーケティング」
「女性たちのウェルビーイング」
「女性たちが見ている10年後の消費社会」等ベストセラー多数。
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