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5年間で大きな成果を生み出したボランタリーチェーンブランド『くらしモア』のリブランディング。デビュー30周年を見据えたこれからに向けて。

日本流通産業株式会社

専務執行役員 兼 管理本部 本部長 田淵 寿氏

「くらしにもっと!」をコンセプトに1995年に誕生したくらしモアブランドのさらなる認知度を高めるために、2018年にリブランディングをスタート。ハー・ストーリィでコンセプト開発の依頼をうけました。実行には、お客様に一番近い加盟社店舗や社内で働く女性スタッフが中心となって「くらしモアリブランディング会議」を立上げて学びながら取り組みました。
リブランディング導入後は、「ママモア連絡協議会」としてプロジェクトを継続。女性視点での商品開発を実現するための基盤づくりをさせていただきました。
プロジェクトから導入して5年が経過。田淵専務に、この5年間の成果と、今後についてお話をお聞きしました。

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日本流通産業株式会社 専務執行役員 兼 管理本部 本部長
田淵 寿氏
〈プロフィール〉
1956年12月10日生
1979年3月 株式会社平和堂へ入社
2013年5月 同社取締役 開発本部長
2014年2月 同社取締役 商品本部長
2017年2月 同社取締役 開発本部長 兼 開発部長
2017年5月 同社常務取締役 開発本部長 兼 開発部長
2018年2月 同社常務取締役 開発本部長
2020年9月 日本流通産業株式会社 顧問に就任
2021年2月 日本流通産業株式会社 専務執行役員に就任

共創プロジェクトの目的

日本流通産業株式会社(略称ニチリウ)グループのボランタリーチェーンブランド『くらしモア』をリブランディングしマーケットに定着させることで、商品力の強化と加盟社及びニチリウの取扱高拡大を実現する。
・「くらしモア」を加盟社店舗で、よりお客様に支持されるブランドとするために店舗内での存在価値の再確認とペルソナの設定と共通理解の推進
・女性スタッフの活躍の場を広げ、お客様視点での商品開発や企画が生まれる体制づくり
・加盟社店舗におけるNB(ナショナルブランド)、PB(プライベートブランド)との違いを明確にし、存在価値を明確化しシナジーを創出

共創プロジェクトの内容

2018年10月〜2019年4月 【くらしモアリブランディング会議】
『くらしモア』ブランド誕生25周年を前に、消費行動の変化に対応した「よりお客様目線に立った」リブランディングがスタート。ハー・ストーリィは、ニチリウと加盟社代表の女性社員によるプロジェクトチームの立ち上げから会議のファシリテーター、コンセプトワークやロゴ制作の監修などを通じて伴走した。

2019年8月〜継続中 【ママモア連絡協議会】
マーケットへの導入と浸透と定着を目指し「ママモア連絡協議会」を設置し、加盟社代表の女性社員と議論を重ね、モニタリングやアンケートを現在も実施。

​導入成果

本プロジェクトを通じ、下記の成果を生み出した。
1 ターゲット明確化→「子育て世代の女性」
2 コンセプト決定→「気づけばいつもくらしモア」(子育て世代の女性を応援)
3 キャッチコピー策定→「いつも、ずっと、そばに」
4 「くらしモア」宣言策定→①価格の約束 ➁信頼の約束 ③進歩の約束
5 ロゴのリニューアル→くらしモア宣言とSDGs的要素をデザインに反映。
6 デザインマニュアル作成→ロゴマークの使用やパッケージデザインのルール策定
7 ブランドサイト開設・くらしモアソングのリリース→ハー・ストーリィが制作支援。
8 SNS(Instagram)開設→ハー・ストーリィが運営を担当。
(フォロワー数:11,621人※2024年10月21日時点)
9 2023年 くらしモア公式キャラクター「くらしのモアちゃん」デビュー
10 『くらしモア』商品の取扱高上昇→2021年から2024年でオリジナル商品取扱高117%伸長
11 PBオリジナル商品アイテム数3,000(※2024年6月時点)

今後は「2028年度オリジナル商品取扱高1000億円」という目標に向け、本プロジェクトで得た商品開発力・トレンド分析力・マーケティング力をさらにレベルアップさせるための取り組みを進める。特に、女性スタッフの活躍をより促進させるための、ニチリウと加盟社における管理職のマネジメント力向上が大きなテーマとなっている。

INTERVIEW

取材日:2024年10月時点


インタビュアー:株式会社HERSTORY 代表取締役 日野 佳恵子

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ボランタリーチェーンにおける「くらしモアブランドの存在価値」とは?

 

日野:まずは御社の事業内容について、わかりやすくお教えいただけますでしょうか。

 

田淵:1974年に「小異を存して大同につく」を理念に掲げ、有力チェーンストア7社の結集により日本流通産業株式会社(略称ニチリウ)が発足しました。加盟社が志高く自主独立を守ることを目的とした先駆的な共同仕入機構(ボランタリーチェーンと呼びます)です。スケールメリットを追求する共同仕入に加え、「くらしモア」ブランド商品を主とするオリジナル商品開発に鋭意取り組んでいます。現在では、北海道から沖縄まで16の小売りチェーンと3生協が加盟し、展開する店舗数は合計2,000店超、グループ売上3兆円という、日本有数の小売り集団となっています。

 1995年には、ニチリウグループ独自で企画・開発する商品群を『くらしモア』ブランドにてスタート。絶えずお客様の視点に立ち、スピードをもって事に当り、お客様のライフスタイルに合わせた価値ある品を供給すべく、衣食住全分野の商品を開発・調達してきました。

 

くらしモアのロゴと、商品のパッケージ

 

日野:その歴史ある『くらしモア』を見直すきっかけとなった背景や理由について、お聞かせください。

 

田淵:実は、私自身はもともと加盟社である(株)平和堂出身で、ご縁があって2020年にニチリウの顧問として着任しました。ですから、ブランドスタートからリブランディングスタート直後まで、商品を販売する加盟社の社員として見ていたわけです。その視点で言うと、なかなか売り場での存在感が大きくなりきっていないということは感じていました。やはりNB(ナショナルブランド)の認知度が非常に大きく、現場のバイヤーサイドとしては売り場展開を優先してしまうんですね。更に各加盟社でも独自のPB(プライベートブランド)を持っていました。加盟社独自PBやNB商品を優先して展開がされていますので「くらしモア」ブランドの存在価値はどこにあるのか?と考えさせられました。幸いにも「くらしモア」商品を前面に打ち出して売場展開してくださる加盟社もありましたので、加盟社にとって「自分達のブランド」になること、存在価値のあるブランドにしていくことが私の仕事だと考え決意を新たにしました。

 2020年の9月よりリブランディングされた商品が店頭に並ぶようになりましたが、その効果や変化を実感するにはまだ至っていませんでした。ママモア連絡協議会では非常に熱心に議論を重ね、その内容がとても充実していることに感心したことを覚えています。ハー・ストーリィさんの指導やリーディングが大きな役割を果たしてくださっていることを身をもって理解することができました。


リブランディング会議から生まれた「いつも、ずっと、そばに。」は子どもたちの成長を見守るブランドというコンセプトを言語化しています。


お客様に一番近いスタッフが、リブランディングの一番の適任者


日野:弊社が最初に御社と関わらせていただいたのは、御社の経営トップ会にお呼びいただき、「女性が築くマーケットの現状と今後の動向~小売店は何をすべきか」というテーマで講演を行なった時ですね。それをきっかけに、女性の購買行動や心理を理解したマーケティングの必要性を理解し、まさしく『くらしモア』の閉塞感を打開する鍵がそこにあるのではと気づいていただいたことから、弊社にあらためてリブランディングのコンセプトづくりから関わることをご依頼いただきました。

 弊社がまず着手したのは、リブランディングを「購買層に属性も接点もいちばん近い」女性スタッフが中心となるためのプロジェクト化。メンバーには、当時のロゴ制作の背景など『くらしモア』ブランドについての理解、「ブランディングとは何か」「なぜリブランディングが必要なのか」などを学んでいただくことから始めました。約1年半の期間を経て、加盟社各店舗の顧客層のペルソナ化、コンセプト設定、キャッチコピーやロゴなどのクリエイティブ制作までをやり遂げ、生まれ変わった『くらしモア』がスタートしたのです。

 

田淵:私もニチリウに来てからリブランディングプロジェクトの取り組みを知り、リブランディング会議で熱心に議論を重ね、苦労して一つ一つを形にして商品化に繋げているかを理解しました。お客様の暮らしに関わる商品を作るのに、いかに女性の視点や意見を取り入れることが大切であるかを実感しました。しかし、お客様や世の中へ浸透させるには、ニチリウも加盟社も、社内での理解や後押しが課題であることも知りました。それは、リブランドがスタートしてから始まり現在も継続している「ママモア連絡協議会」から発信されるモニタリングやアンケートの分析から生まれるアイデアの素晴らしさからです。

 商品開発や販促企画、公式Instagramやくらしモアソング、加盟社店舗でのくらしモアフェアなど、現場目線での効果的な施策がどんどん生まれる“場”があり“人”がいる一方、そういう場や人をどんどん生み出すためのマネジメント体制にまだなっていない。もともと、商品開発にしても売場展開にしても、トップダウン的に現場から遠いところから指示を受けるというやり方で長い間続けてきた風土や慣習は、変わりつつはあるけどまだ抜けきっていないところもあるんですね。ですから、これからは人事制度や教育体制を充実させることも含めて、年齢や性別や職種に関わらず誰もが活躍したいと思えるような組織にしていきたいと思っています。

 

パッケージデザインアンケートの様子

 

チャレンジできる組織こそが人を育て、商品を育て、業績を伸ばす


日野:御社は2024年6月には創立50周年となり、『くらしモア』も2025年には30周年を迎えることになりますが、節目や分岐点におけるゴール設定とそこに向けて社員を巻き込むことが大変上手だと思っています。その要因は何なのでしょうか。

 

田淵:創立50周年のプロジェクトでは、公式キャラクター「くらしのモアちゃん」を生み出したり、「ニチリウの歩み」というYouTube動画を制作。また、例年開催している「くらしモアフェア」にて50周年記念特別企画を実施するなど、社内外から大きな反響をいただくような取組みを実現できました。これは、『くらしモア』リブランディング会議を成功事例として、部門横断型で各部署から選抜されたメンバーにプランニングをすべて任せたことが、成功の大きな要因だと考えています。経営層や管理職はメンバーに仕事を任せ、責任は自身が持つ姿勢が大切です。これからの若手活用や女性活躍の推進にドライブがかかるきっかけになっているのではないでしょうか。

 『くらしモア』に関しても、30周年となる2025年にオリジナル商品取扱高1000億円という目標を掲げています。もちろん売上金額だけを追い求めるわけではありませんが、先ほど少し触れました「ママモア連絡協議会」では、より広い消費者へのブランドの浸透と定着を目標に女性メンバーが意思と責任感を持って活動しており、順調に取扱高も伸びています。ニチリウと加盟社の女性メンバーのみで構成されるプロジェクトから生み出されるさまざまな企画や商品で、着実に目標に近づいている実感があります。

 

くらしモアの公式キャラクター「くらしのモアちゃん」。

 

日野:誰もが思い切ってチャレンジできる環境というのが、とても大事なのですね。

 

田淵:そうですね。チャレンジすることで変化が起こり、そのチャレンジの成功を周りが見て熱が伝わるのだと思っています。この企画はうまくいってるなとか、この商品は成功だなと実感するのは、やはり現場、売り場なんですね。お客様が手に取っている姿を見るということだけではなく、その売り場がお客様にとって魅力的なものになっているかどうか、売り場のスタッフが売りたいという強い思いを持っているかどうか。不思議なことに、熱量というものは感じることができますから。プロジェクトメンバーが自信を持って開発した商品は、店舗の販売スタッフも売りたいという気持ちが強くなるものです。今では商品の改廃も積極的に実施していますが、ほんの数年前までは、すでにリニューアルされた商品が発売されていながら廃盤商品がまだ店頭で売られていたり、そしてその状態を担当者が改善せず放置しているような売り場もあったことを考えると、リブランディングプロジェクトの功績は目に見える成果や業績だけでなく、人の意識や組織の風土を変えるという目に見えないものもたくさん生み出したと言えるのではないでしょうか。

 

売り場のスタッフが「売りたい」と思える商品づくりを実現するための体制に

 

日野:衣食住の関連商品を扱うボランタリーチェーンとして、たくさんのお客様に喜んでいただけるような商品を生み出し続けるという使命において、トレンドをキャッチしたり最新の情報を逃さないことが大切だと思えるのですが、それはどう担保されているのでしょうか。

 

田淵:弊社は自社店舗を持っているわけではないので、商品を売る現場はあくまでも加盟社の店舗となります。ですから、弊社の独りよがりで開発された商品を押し付けてもうまくいきません。加盟社に「これは売れそう」「これは積極的に売りたい」と思ってもらうことが大事です。そのために、商品開発においては女性視点やモニタリング等お客様視点のモノ作りが大切だと考えています。現状は加盟社バイヤーとニチリウバイヤーがプロジェクトチームをつくり、競合店の価格や品ぞろえ、品質の調査を行い商品開発を進めています。しかし、子育て中のお客様に本当に求められている商品はなんだろう、というお客様視点での商品開発ができるメンバーが限られています。ママモア連絡協議会の活用・モニタリングもまだまだ不足していますが、それでも着実に前進していると感じています。

 

ママモア連絡会議の様子。商品を食べ比べる試食会も定期的に開催しています。

 

日野:私たちが毎月まとめている、さまざまなカテゴリーに分類した女性マーケットのトレンドデータも、お役に立てるかもしれませんね。

 

田淵:確かに、それぞれのメンバーが経験値や肌感覚で持っているターゲット像に加えて、客観的事実に基づいたデータを付加することで、ぐんと精度が上がるかもしれませんね。やはり『くらしモア』を先導するニチリウは、加盟社にリードされるのではなく、「ニチリウが商品開発においても引っ張ってくれるから安心できる」と思っていただける存在にならないといけないと思っています。

  以前、「ママモア連絡協議会」の中で、ニチリウグループの各店舗において食料品などと比較して訴求力が弱く、お客様が他社で購入されることの多い「靴下」をいかに強化するか、というテーマをハー・ストーリィさんに主導していただき成功させたことがありました。そこで得たノウハウなども、当時のメンバーで留めるのではなく、商品開発を担当するバイヤーが共有すれば売り場のスタッフがより共感できる商品を生み出すことができるかもしれません。

  


ブランド力強化の要は人材育成

日野:では最後に、田淵専務がこれから『くらしモア』ブランドについてどうしたい、あるいはこうあるべきだという方向性についてどう考えていらっしゃいますか。

 

田淵:具体的な目標としては、2028年度にオリジナル商品の取扱高1000億円達成を掲げています。リブランディングをスタートしたことで順調に業績を上げてきましたが、更に加速するためには、更なるブランド力の向上を考えなければ難しいと考えています。その最重要課題が「人材の育成」だと考えています。商品開発力のあるバイヤー、メンバーの能力を最大限に発揮させることのできるマネージャー、SNSなどのメディアでファンを増やすことに長けたマーケティングスタッフ等を育成するためのセミナーや研修会への参加を促し、社内勉強会を充実させ、『学んで実行する組織風土』をつくり上げ、『くらしモア』ひいてはニチリウグループのブランド力を高めていきたいと考えています。


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