駅直結の新店舗に女性視点を活かし、モノを売るだけでなく、人をつなげる場としての可能性を探る。
株式会社東武ストア
代表取締役社長 土金 信彦 氏
地域のお客様の食と暮らしを支えるスーパーマーケット。
駅直結の新店舗に女性視点を活かし、モノを売るだけでなく、人をつなげる場としての可能性を探る。
東京、埼玉、千葉エリアで食品を中心としたスーパーマーケットを展開している株式会社東武ストア様。2021年3月、64店舗目となる「東武ストア新河岸店」が東武東上線「新河岸駅」(埼玉県川越市)に直結した複合ビルの2階にオープンしました。店舗立て替えにより3年間の休業、上層階に女性専用マンション「ソライエアイル新河岸」を持つ複合ビルといったこれまで経験のない出店に向き合うため、ハー・ストーリィは、地域の実態調査や女性視点での店舗プランニングなどを担当させていただきました。オープン間もない4月、当初課題への対応の様子や滑り出しの状況などについて土金信彦社長に伺いました。
株式会社東武ストア
代表取締役社長 土金 信彦 氏
<プロフィール>
1955年4月26日生(65歳)埼玉県出身
1979年3月 中央大学商学部卒業
1979年4月 東武ストア入社
2001年3月 同社日配食品部長
2003年3月 同社惣菜部長
2009年2月 同社商品本部長
2009年5月 同社取締役商品本部長
2012年5月 同社常務取締役商品本部長
2016年4月 同社常務取締役営業本部管掌兼商品本部長
2016年5月 同社専務取締役営業本部管掌兼商品本部長
2017年3月 同社取締役専務執行役員商品本部長
2018年3月 同社取締役副社長執行役員営業統括
2019年3月 同社取締役社長(代表取締役)、現在に至る
共創プロジェクトの目的
年齢や時間帯での買い物行動の変化については日頃より分析を行い、数値的なデータを基に店舗づくりを行ってきた。その結果、商品の品質や価格等が優先事項となり、売り場での女性客に魅せる(楽しく追加購入していただく)企画ノウハウが社内に構築されていなかった。女性客のニーズに寄り添いながら、商品を提案する売り場企画を具体的に取り込もうと新店オープンのタイミングで始動した。
共創プロジェクトの内容
今回ご依頼いただいた、新河岸駅周辺に住む地域女性たちの声を徹底分析。周辺利用者データも参考に顧客像のクラスターイメージをメイン、セカンド、サードと3つ作り、実際の女性たちに生声インタビュー。地域女性の声を分析して、店舗コンセプトメッセージやどんな商品をどんな風に提案されていたらうれしいのか、など女性のインサイトに基づいた店づくり
導入成果
・地域密着のお店を創る上でのお客様視点の取り入れ方が社内に理解、導入できたことは大きい。中でも塾が周辺に多いことで、学生や子育ての方々が立ち寄れる商品の重要性を再認識した。
・女性向けのマンションとの併設立地だったことを考慮し、1人暮らしの女性が欲しい商品の充実や地産地消の充実などはお客様に評価されている。見せ方などにも新たな視点が持てるようになった。
INTERVIEW
取材日:2021年5月時点
■「男性と女性の認識の違い」に気付き、女性視点に着目
日野:2019年に私鉄系スーパーマーケットが集まる(株)八社会で講演させていただいた時、土金社長に初めてお目にかかりました。2020年から、新店のオープン準備に携わらせていただき、社員の皆さまに向けてお話する機会も頂戴しました。弊社にご依頼いただいた理由から、お聞かせいただけますか。
土金さん:講演の資料で、「世界の消費の64%は女性が買っている(出典:ウーマンエコノミー)」という記述がまず目に飛び込んできました。当社も、現場で働く従業員の7割が女性です。これまで、女性向けの売り場作り、女性が活躍できる職場について考えてきましたが、なかなか具体的な形になりませんでした。それが、日野さんの講演で「そもそも事実確認する左脳が優先の男性と、左右の脳で考える女性は違う」「男性はBuy(目的買い)で、女性はShopping(買い物をする)」という話しを聞き、ハッとしました。男性と女性の認識に違いはあると分かっていましたが、「何が」違うのかをこれまで深く考える機会がありませんでした。これは私も含め全員が勉強させてもらわなければと思い、日頃から女性のお客様に接している店長、社員に向けた講演をお願いしました。2020年下期にご講演いただいた内容は、社内で大変好評でした。
日野:小売業の方は、お客様に女性が多いことはみなさんご存知ですが、女性と男性の判断に差があることは、あまり研究されていないのでしょうか。
土金さん:当社では年齢や時間帯での買い物行動の変化については日頃より分析を行っています。コロナ禍の今、高齢者の方が混雑を避けて午前中の買い物に移行しています。高齢者の方が好まれる商品等については注視しています。例えばお弁当であれば、午前中は小サイズ・和風系の品揃え、お寿司であれば、午前中は巻き物、午後はにぎり寿司といった具合です。商品によりボリュームや内容を変えることはしていましたが、マーケティングにおける男女の視点の差という観点から商品作りは行っていませんでした。
日野:商品はご覧になっていたけれど、お客様へのプレゼンテーション、見せ方についてはあまり気になさっていなかったということですか。
土金さん:これまで、商品の品質・価格等が優先されていました。もちろん、プレゼンテーション・見せ方についても注意を払っていましたが、女性視点という意識はありませんでした。
そうしたところから、2020年下期からオープンを前にした新河岸店の店舗作りについてもアドバイスをお願いすることにしました。
■「ほしい」に応えたら、品切れ続きの商品も
日野:新店舗が入る駅ビルは、1階テナントにカフェや保育園、フィットネスが入り、上層階には女性専用マンションがあることなどから、顧客層も女性が多いことが想定されました。現状はいかがですか。
土金さん:お客様はそれらすべてを一つの施設としてみますが、私たちはどうしても個々のパーツで見て、複合ビルであってもストアはストアとして考えてしまう。ただ今回は、鉄道の施設そのものに「女性視点」というプランがあったので、施設と一体感を持たせた店作りをしようと考え、迷わずハー・ストーリィさんにお願いしました。お陰様で滑り出しは上々です。
私は2019年5月に社長に就きました。新店は新たなトライの場所であり、その中で新しいマーチャンダイジングを積み重ね進化して行かなければなりません。これまでの当社は、大きな投資をして新店を出しても足踏み状態が続いていました。社長になり、マーチャンダイジングを進化させるためには私たちの器の中だけで考えていても殻は破れない、日野さんたちに外から殻を突いてもらったら変われるのではないかと考えたのです。
日野:私どもが行った街中や駅周辺の実態レポート、利用者様インタビューの声を内装や陳列などに反映してくださり、本当に素敵な店舗になっています。お客様のご利用も多いと伺い、私たちもうれしいです。
土金さん:インタビューでいただいた「塾の送り迎えの途中でサッと買い物をしたい」「平日夕方は惣菜を一品買いたい」という声に応えて入り口近くに惣菜を置いたり、レジ回りには翌朝用のヨーグルトや牛乳を揃えました。焼き立てパンやご褒美スイーツを求める声も多かったので、近隣の川越店で朝焼いたパンを昼過ぎから品揃えしています。
スイーツは評判が良く、私が行く度に売り切れているので発注量を増やすのですが、増やしても増やしても売り切れています(笑)。お客様に喜んでいただけて何よりです。
■数字や効率より「楽しめる」レイアウトで回遊性アップ
日野:店内のレイアウトについても、ずいぶん工夫をなさっていますね。
土金さん:駅直結の施設は売り場が縦長になりがちですが、レイアウトで長さを感じさせないようにしました。男性はスペースがあると、どうしても坪効率、棚効率など数字を捉えてどこに何を置くか決めがちですが、女性はゆったり選べる楽しさを好むと伺いましたので、入り口に近い青果売り場の先に少し広いスペースを取るなどしました。
その効果もあり、奥までお客様が足を運んでくださっています。勉強させていただいたように、数字には出ない部分が女性のショッピングを後押しするということ。なるほどと、納得しました。最近は社内で、「レジ回りにもう少しゆとりを持たせては」といった議論が出るようになりました。
日野:女性が滞留し、商品を見て楽しんでいる様子を社員の皆さんが実感し、結果として数字にも表れつつあるということでしょうか。
土金さん:まさにそうです。そういったモニタリングが私たちには不足していました。地域を調査することはありましたが、価格やどの店を選ぶかといった相対的な比較で終わっていたので、「こうだったらいいな」といった「生の声」はつかめませんでした。
今の場所は立て替えのために3年間のブランクがあったことが心配でしたが、お陰様でいいスタートが切れています。
■会話を重ねてアプリ開発など、女性社員の感性に期待
日野:女性社員の方も期待に応えて頑張っていらっしゃいます。
土金さん:昨年の後半、お客様向けに情報発信するアプリの開発を男性チームが進めていましたが、日野さんの講演を聞いて男性の私たちではいいものは作れないと思い(笑)、一度白紙に戻し女性チームを立ち上げて一から作り直しました。最初は感性も乏しく見えましたが、日に日に良くなり、良いものができたと思います。
日野:女性たちのプロジェクトの進捗を見て、何か男性との違いは感じられましたか。
土金さん:私もそうですが、男性は「こういうモノを作ろう」と先に結論があり、そこから選択肢を考えがちです。しかし、女性は何度も会話をし、いろいろな話しの中から一つのものができ上がっていくので、これはずいぶん違うなと思いました。いろいろな話も、決して無駄にはなっていない。
日野:女性は一つ一つ納得しながら進んでいるので、そのプロセスを通過された皆さんは今後すごく活躍すると思います。
土金さん:先日、「#ワークマン女子(※)」に行ってみました。やはり女性客が多かったですが、皆さん、レジ前にある男性向けや子どもの商品も買っていて、誘い方がうまいと思いました。人の顔を出したPOPも目に付きました。私たちは文字で表現しがちですが、それでは誰も読まない。絵の表現は分かりやすいし、特に女性の方は感覚でパッと捉えるんでしょうね。当社もその点をご指摘いただいていたので、最近は顔写真などを出したPOPが増えつつあります。
(※) #ワークマン女子:作業服販売のワークマンの中で、女性をメインターゲットにした新コンセプトの店舗
■ハー・ストーリィに期待すること
日野:ハー・ストーリィに対して、今後のご期待やご要望がありましたら、お教えください。
土金さん:当社は経営理念に「お客様のより良い暮らしに貢献する」と掲げていますが、今の時代、「より良い暮らし」とは何か。私が入社した時代は車を持つ、家を建てるなど、基本的にモノを持つことが「より良い暮らし」で、私たちもモノを提供することが使命でした。
しかし、コロナ禍の中で何を提供する事が「より良い暮らし」に貢献できるのかは、男性の私たちだけで考えただけでは答えが見つからない気がします。女性視点も交えて考えた時、初めてより良い暮らしのヒントが見えてくるのかなと思います。
日野:モノがあふれている今、モノからコトへ、コトから意味へ、意味から意義へ、フェーズが変わっていると考えています。そして世界中でSDGsやソーシャルという言葉が広がり、「消費する自分に責任が返ってくる」ということを多くの人が分かっています。
さらに、コロナによって直接的な接触が制限されてコミュニケーションが断絶しているので、自分の行動や消費が地域の何かや誰かに還元したり、何かの変化が見えるところに人が集まり始めています。
例えば、買い物を通じて誰かとつながることができるように店舗や流通さんが媒介になってくれるとすごく喜ばれると思います。
土金さん:そうしたヒントをいただいたので、地元を応援したい気持ちに応えようと、隣駅の川越から地元のお菓子やお酒、地元農家さんの野菜などの商品を取り込んでいます。
最近、川越エリアでものづくりをする若い方の活動が増えています。それらを紹介するインフォメーションボードも川越店内に作りました。そういった人を応援したいという方々が増えるかもしれないし、間接的に人や何かをつなぐ取り組みが、結果的にいつか当社に戻ってくるような仕組みが作れるのではないかと思っています。これまでの単なる販促物をお客様とのコミュニケーションツールにしていく。
こうした事で、物を売る場が人をつなげる場に変化していく気がします。ハー・ストーリィさんからヒントをいただいた中で、できるところからやっていきたい。
日野:コロナ禍のいま、安心して人と会える場所は少ないです。でも、お店は店長さんや店員さんもいるので、安心して買い物ができるセーフティーゾーンであり、特に女性にとってはコミュニティの場にもなると思います。
今後は、お子さまやお母さん、家族みんなの元気でしあわせな暮らしを応援する役割を果たしていかれるのではないでしょうか。これからをますます楽しみにしています。本日はどうもありがとうございました。
■対談を終えて
日ごろから地域のお客様を大切にされ、努力をされている東武ストア様。
女性視点の買い物行動に関心を持っていただきました。最初は、社内向けの講演会を開催。社長の号令の下、皆様一丸となって新店づくりに取り組みされ、感動しました。私たちも、自分が行きたいお店づくりを考えました。女性視点のお店が広がることを応援させていただきます。
その他のトップインタビュー
女性トレンド総合研究所の共創プロジェクトに参画いただいた企業のトップに、
その取り組みと成果について聞きました。
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